特報・まちづくり市民事業


本のカバー作業中 佐藤滋ほか著『まちづくり市民事業〜新しい公共による地域再生』
A5判、304頁、3400円+税(3570円)、11年3月31日発売
 

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はじめに(未定稿)

 市場経済と政府セクターは近代民主主義社会を担う車の両輪であった。しかしこの両者に20世紀の終盤から明らかなほころびが見え始め、「第三の道」に代表されるもう一つの社会経済運営の方法が模索され、「新しい公共」がその担い手として我が国の政権でも位置づけられようとしている。本書の主題である「まちづくり市民事業」はこのような文脈の中に位置づけられる歴史的な流れを意識しつつ、日本で勃興してきた市民の手によるまちづくり事業の動きを確認し、それを広く展開する方法を提起するものである。
 さて、我が国で1970年代に勃興した「まちづくり」の歴史は、公共事業が身近な生活環境の改善に十分に機能しない中で、様々な実践を繰り返した。そして、イベントやソフト事業の実行、計画やデザインへの参画という段階から、市民自らがまちづくり事業を、企画・実行し運営するという段階に到達しつつある。
 本書で「まちづくり市民事業」と名付けたものは、まさにこのようにして生み出されたもので、現代社会の様々な課題への地域社会での対応として登場した。そして、多様な主体による協働と連携により実行され、これを核として様々なまちづくり事業が連なって柔軟な地域での展開を連続させている。
 さらに、まちづくり事業を自らコーディネートし、市民による事業を再生産するプラットフォームとして地域運営の布陣を形成するものも登場している。そして、計画管理、地域運営の中核になる「まちづくりパートナーシップ組織」に移行するものも見えてきている。こうして登場する、まちづくり市民事業を核とした地域社会のマネージメントの仕組みは、地域での多様な共治のイメージを提供し、都市・地域再生の担い手となっている。
 本書では、これまでに積み上げられたまちづくり市民事業の様々な事例を紹介し、ここから見えてきたまちづくり市民事業の方法と理論を記している。しかしこれら、本書で取り上げたまちづくり市民事業は、明確な社会的な支援制度が存在しない中で、先端を切り開こうという市民と専門家・行政が努力を重ねてようやく実現しているものである。これまでのまちづくりに関係する仕組みは、このような先端的・実験的な取り組みを一般化して制度としたものが多いし、今、そのような流れも見えてきている。
 本書で何度も触れている「新しい公共」や「社会的企業」を社会経済運営のもう一つの担い手とすることは、政治的な立場に関わらず21世紀前半に実現すべき世界の大きな潮流である。まちづくり市民事業を社会的なミッションの担い手として明確に位置づけ、個別の献身的なぎりぎりの努力の成果を制度化し、より深く広い社会貢献ができるような仕組みを是非、構築すべきである。たとえば、集合住宅を中心としたまちづくり市民事業に、家賃を減免した広い意味での社会住宅を組み込むことができるような、そのことが、まちづくり市民事業のインセンティヴとなるような、税制や公的補助の仕組みが必要なのである。
 「新しい公共」という現政権の大きな政策の柱があり、様々な予算措置や支援制度が試みられているのだが、その「新しい公共」が、どのような社会システムの再構築を目指しているのか、全体像は明確でない。非効率な公共セクターの仕事を、効率的でユーザーに近い市民セクターにアウトソーシングするというような、行政改革の一環のような意味合いが強くでてしまっていて、指定管理者制度で、公共の仕事を「効率的・すなわち安価な」組織に任せ小さな政府を目指す手段と勘違いされそうである。このように、市民組織も民間と「価格とサービス」を競わせるというのは、「新しい公共」の理念とは全く異なる。逆に、民間主導で行われていた分野、民間が収益性の観点から、手を出さない分野を、社会的サービスの提供、雇用の創出などのミッションを付加させて市民事業化するということはありえよう。
 こうした検討が進み、新しい公共のための制度設計がなされ、社会システムとしての認識が進むことにより、その元での具体的な成果に結びつける事業が遂行されるのである。とともに、まちづくり市民事業の実践の積み重ねが新しい公共の姿を明確にし、制度設計につながる道筋も信じたい。
 そうして本書で取り上げている「まちづくり市民事業」が、社会政策、制度に明確に位置づけられることにより、より広く深い社会的使命を達成し、まちづくり市民事業本来の姿に近づくのである。本書「まちづくり市民事業論」は、その端緒と限りない可能性、そしてこれらが担う地域社会の将来像と空間像を描いたものである。
 最後に、本書の編集の労とお取りくださり、的確なコメント、というより時にはバトルを引き受けながら、著者達を叱咤激励してくださった学芸出版の前田裕資氏に、心からの感謝を述べたい。
著者を代表して 佐藤 滋
 2010年12月

○関連セミナー

◇「まちづくり市民事業の進め方」 2011年4月8日夕方、東京・早稲田大学(準備中)
◇「まちづくり市民事業〜新しい公共による地域の社会経済運営の展望  佐藤滋・久隆浩 2011年4月22日、夕方、京都・学芸出版社
◇「まちづくり市民事業と専門家の新しい職能」 川原晋、武田重昭、山崎義人 2011年5月17日夕方、京都・学芸出版社(準備中)

○関連資料

・蓑原敬編著、佐藤滋ほか著
 『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ
 同書の出版にあたってのインタビュー
 「佐藤滋さんに聞く」
担当編集者のブログ

○略歴

佐藤 滋(さとう しげる) 49年千葉県生まれ。73年早稲田大学理工学部建築学科卒業、90年早稲田大学教授に就任。工学博士。早稲田大学都市・地域研究所・所長として、自治体、民間セクター、市民まちづくり組織と実践的な共同研究を行い、市民と専門家が連携する新たなまちづくりの方法の確立に取り組んでいる。日本建築学会会長、工学博士。主な著書、共著に『図説・城下町都市』(鹿島出版会)、『地域協働の科学』(成文堂)、『図説・都市デザインの進め方』(丸善)、『大震災に備える1、2』(編著、日本建築学会叢書)、『まちづくりデザインゲーム』『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』(学芸出版社)『まちづくり市民事業』(2011年3月31日刊行予定、学芸出版社)など。

予定目次

 はじめに

序章 まちづくり市民事業とは何か  佐藤 滋

1 まちづくり市民事業への背景
2 担い手の登場
3 まちづくり市民事業が生まれる
4 まちづくり市民事業の連携と地域展開モデル
5 まちづくり市民事業が拓く世界
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第1編 事例

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1章 市民事業による歴史的空間の修復と公共空間の形成  白木 里恵子

1 まちづくり市民事業の土壌
2 小樽運河周辺地区における歴史的建造物の転用
3 歴史的資源の活用におけるまちづくり市民事業の可能性

第2章 歴史都市で創造圏を生むまちづくり市民事業の展開  真野 洋介

1 歴史都市の環境とまちづくり市民事業
2 市街地の状況
3 まちづくり市民事業への展開
4 斜面地における地域マネジメントの展開
5 創造圏の生成を支える地域の文脈と構造
6 まちづくり市民事業の可能性

3章 官民協働による事業からまちづくり市民事業への展開  野嶋 慎二

1 「蔵の辻」まちづくりの概要
2 「蔵の辻」で発生した市民事業
3 市民事業を推進していく体制と役割
4 まちづくり市民事業としての今後の展開

4章 「まちづくり」から「まちづくり市民事業」へ  岡田 昭人

1 二つのまちづくり会社
2 社会実験の積み重ねから住環境改善の事業に向かう
3 支え合って住み続けるための共同建替え事業
4 土沢のまちづくりから見えてきたもの
5 今後のまちづくり市民事業の課題と条件づくりに向けての提案

5章 復興を通してのまちづくり連携組織の形成  益尾 孝祐、岡田 昭人

1 被災市街地の創造的復興を支えるまちづくり市民事業
2 復興協議会による住民主体の復興まちづくり
3 まちづくり市民事業を生み出すまちづくりのプロセス
4 復興に向けて動き始めたまちづくり市民事業
5 まちづくりパートナーシップの形成へ
6 まちづくり市民事業による復興まちづくりの今後に向けて

6章 防火建築帯の再生をきっかけとした中心市街地活性化  阿部 俊彦、岡田 昭人

1 鳥取市中心市街地におけるまちづくり市民事業の萌芽
2 防火建築帯の再生でまちづくり市民事業を仕掛ける

7章 まちづくり市民事業による木造密集市街地の再生  阿部 俊彦、岡田 昭人

1 木造密集市街地の整備手法の限界と課題
2 地域住民の発意から始まった街区環境改善の取り組み
3 木造密集市街地におけるまちづくり市民事業の可能性

8章 新中活法に基づいたまちづくり会社による事業展開  久保 勝裕

1 富良野市におけるまちづくり市民事業の位置づけ
2 中心市街地における2つの事業展開の流れ
3 法定協議会と「新会社」の組織化のプロセス
4 公益的ディベロッパーとしての「新会社」の事業実績
5 市民事業を波及させる「支援事業」の展開
6 地域運営を担う多主体協働の体制づくりに向けて

第9章 まちづくり市民事業の到達点  鈴木 進、川原 晋

1 鶴岡の中心市街地の再生とまちづくり市民事業
2 クオレハウスプロジェクトにみる事業の立ち上げプロセス
3 山王商店街プロジェクトにみる地域社会基盤の形成
4 総括 まちづくり市民事業の到達点

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第2編 仕組み

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第10章 まちづくり市民事業のマネジメントの課題  鈴木 進

1 まちづくり市民事業の「ミッション」
2 まちづくり市民事業における戦略の共有化
3 持続可能な事業モデルの構築
4 まちづくり市民事業の担い手の組織化
5 事業連携

11章 まちづくり市民事業における担い手の役割  川原 晋

1 事業の形からみた「まちづくり市民事業」の特徴
2 まちづくり市民事業の形成プロセス
3 まちづくり市民事業の担い手と役割
4 まちづくり市民事業を支える専門家としての職域拡大を

12章 まちづくり市民事業の協働関係〜態勢から考える  内田 奈芳美

1 まちづくり市民事業の態勢とは
2 まちづくり市民事業の態勢をかたちづくる要素
3 まちづくり市民事業の態勢の変容パターン
4 まちづくり市民事業の課題(態勢から考える)

13章 まちづくり市民事業を育て支援する仕組み  内田 奈芳美

1 まちづくり市民事業を育て、支援する仕組み〜ブースター
2 インキュベーション(起業支援、育成)
3 インターミディエーション(中間支援)
4 まちづくり市民事業のためのブースターの今後の課題

14章 まちづくり市民事業を育む創造的環境  齋藤 博

1 まちづくり市民事業の土壌としての「創造的環境」
2 市民事業の創出における行政の役割
3 多様なパートナーシップによる地域運営
4 市民の創造性
5 「創造的環境」を形成する文脈化された地域力

15章 地域経済基盤を支えるまちづくり市民事業の新たな資金調達  小松 俊昭

1 地域独自の経済基盤確立に向けて
2 まちづくり市民事業構築のための資金構造
3 経済基盤構築に向けた組織づくりとその状況確認
4 地域経済基盤の確立に向けた「不動産民事信託」の活用
5 非上場型不動産投資信託の活用
6 持続的な資金循環の構築

16章 まちづくり市民事業の評価  名取 隆

1 評価の主体と目的
2 まちづくり市民事業の事業評価

17章 組合事業から見たまちづくり市民事業への展望  田中 滋夫

1 都市整備における組合事業制度
2 組合事業でのまちづくり事例から
3 組合事業システムの課題と展望

18章 まちづくり市民事業がデザインする地域再生  齋藤 博

1 社会的企業とまちづくり市民事業
2 イギリスの社会的企業によるコミュニティ・ディベロップメント政策
3 イギリスの社会的企業による都市再生の取り組み例
4 イギリス政策から学ぶべきポイント

 おわりに


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