コミュニティデザイナーとして、新たな領域を開拓中の山崎亮さんが、初めての単著『コミュニティデザイン』を著されました。
大学卒業後、ランドスケープデザイナーとして公共空間のデザインに携わっていた時期から、独立を経て現在に至るまで、その仕事の全貌を書き下ろされています。
聞き手:井口夏実(編集部)



山崎亮(やまざき りょう)
1973年愛知県生まれ。studio-L代表、京都造形芸術大学教授。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築やランドスケープのデザインなどに関するプロジェクトが多い。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」「震災+design」でグッドデザイン賞、「こどものシアワセをカタチにする」でキッズデザイン賞、「ホヅプロ工房」でSDレビュー、「いえしまプロジェクト」でオーライ!ニッポン大賞審査委員会長賞を受賞。共著書に『都市環境デザインの仕事』『マゾヒスティック・ランドスケープ』『震災のためにデザインは何が可能か』『テキスト ランドスケープデザインの歴史』など。


本を書こうと思われたきっかけを聞かせてください。
 コミュニティデザインという仕事が、なかなか理解してもらえないというのが一番大きなきっかけです。本でも最初に書いたのですが、上の世代の人たちに「コミュニティデザインをやろうと思ってる」と言うと、大抵は1960-70年代の住棟計画のことを思い浮かべられます。もともとコミュニティという言葉は、地縁型のコミュニティを意味することが多かったので、地域の自治会単位をどうするかというイメージが出てきてしまい、「それは(僕らも)やってみたけど、なかなかうまく行かないものなんだよ」という話で終わってしまう。
 一方で、若い人たちに「デザイン」というと、装飾的なイメージを持たれて、モノをつくらないデザインが一体何を意味するのかわからない、という状態になるのです。しかし興味はあるらしい。ハードからソフトへ、デザインからマネジメントへなど、いろいろな掛け声があがるなかで、モノをデザインしなくても状況は変えられるんじゃないか、と思っている若い人たちが多いような気がします。大学で教えていると、年々その手の思考を持った学生が増えているように感じます。
 住民参加の現場でも、住民から「もうハコモノの計画は必要ないから、まちが元気になる方策を考えよう」という意見が多くなってきた。これまで日本がやってきた地域活性化の結果が見えちゃったのが現代ですから、住民としても「モノをつくったらシアワセになる」という青写真が描けなくなっているのでしょう。
 その意味で、コミュニティデザインに対する期待は膨らんでいる。にも関わらず、コミュニティデザインって何かが一言で説明できない(笑)。説明するのが難しいから、いったん本にして、世に問うことにするのが良いかな、と思ったのがきっかけですね。

ハードからソフトのデザインにシフトする過程で、多くのプロジェクトをご一緒されたデザイナー忽那裕樹さんはどんな存在ですか?
 忽那さんからはいろんなことを学びました。あの人は新顔を試すんですよ、初めて会ったときにもいろいろ質問を投げかけてくる。答えても、それを一旦否定してみたりして、「こいつどんな反応するのかな」と試されるんです(笑)。僕も若かった(26歳)から、むきになって反論するんですよ。「いや、これからはこういうことが大事だと思うんですっ」と。本人は意識していないだろうけれど、そうやって試される時期が3ヶ月くらいありました。それにどうやら合格したかな?と思っていた頃に、忽那さんから『都市環境デザインの仕事』の執筆者に推薦するぞと、声をかけられたんですよ。

 「カタチとナカミとシクミ/パブリックへの静かな要求について」を執筆

 その後も「おまえは何がつくりたいんや(忽)」「いや、つくらないんです(山)」「それじゃ仕事にならん!(忽)」みたいな問答を通しながらも、僕が何か大事なことをしようとしていると腑に落ちると、今度は圧倒的な応援者になってくれたんです。独立する時も、「独立したら一緒にしたい仕事がたくさんあるんやからはよ独立せい!」と言ってくれて、実際独立すると「これも、あれも、一緒にするぞ」と。一時期は15のプロジェクトを一緒に進めていました。その頃は朝10時にE-DESIGNに行って、1プロジェクトに1時間ずつと決めて次々打合せをして行くようなことをしていました。15のプロジェクトですから一通りの打合せに15時間は必要なのに、8時間後には1つ目のプロジェクトの進捗状況が報告されたり、相談がきたりするんで終わらないんですよ(笑)。

新顔を試す先輩。E-DESIGN 忽那裕樹氏

 ソフトとハードのデザインを同時に進めた「千里リハビリテーション病院」のプロジェクトもその時に関わったものです。そこで、忽那さん達がハードのデザインをしっかりやってくれたから、僕はソフトのデザインに専念することができた。そこで僕はソフトを守備範囲として特化させてしまおうと思えたのかもしれません。実際は相互に入れ込みましたけどね。忽那さんもソフトの大切さが分かるのでいろいろ提案するし、僕もハードのデザインをやっていたのでスケッチを描いて見せる。そのやりとりはだけどとても気持ちの良い時間でした。

忽那さんはとてもポジティブな方ですよね。
 だから「忽那さんみたいな喋り方」も学びましたね。「イエス・アンド(Yes, and)」というのですが、「そうそう、それで…」と、どんどん上乗せしていく喋り方です。僕もそれまでは「No, but」と、つい否定してしまうことがあったと思うのです。肯定するのに「でもね、」という入り方をしてしまう。
 それは知らず知らずのうちに会話のトーンを落としたり前向きな話にならなかったりするんです。自分に自信がないと、「でも…」と言ってみたりしたくなるんでしょうけれど、忽那さんはかなり自信を持っている。「自分はこうしなきゃいけない」という揺るがない判断基準を持っているから、相談ごとを受けたときにも肯定した上で意見を言ってくれるんです。

独立以降、studio-Lのメンバーとはどんな風に仕事をされているのですか? 戦略会議はされますか?
 たまにします。昨日もちょうどそんな話をしていて、しかも方針転換を宣言したところです。もともと5年前にスタートした時は、必要な5つのスキル全てを各人が持とうと、決めていたんです。(1)ファシリテーションのスキル、(2)文章を書くスキル、(3)写真を取りウェブや誌面にレイアウトしてグラフィカルに伝えるスキル、(4)空間をデザインするスキル、この4つはこの仕事をしようと思ったら必ずやらなければならないこと。そして最後に(5)お金の計算です。

 スタジオ・エルは設立5年を迎える

 ファシリテーションというのは、アイスブレイクのようなゲームを含めて人の前で歌って踊って司会進行をこなすスキルですね。文章能力については、行政的な言語で書けたり語れたりすること。行政のなかで仕事(予算)を取ってくるための企画書・報告書が書けなきゃいけないですから。そうして、クライアントからちゃんとお金をとってきて次の仕事の原資にします。
 この5つは全員がある程度のレベルをそれぞれ持っておかなきゃいけないと、言ってきたんです。当時は僕だけが社会人で、他の3人のメンバーは学生だったので彼らを育てなければならなかったし。そう言ってやってきたんですけど、実際はなかなかやってもやっても伸びない分野があるもんだなと、だんだん分かってきましたね。当初2、3年は、何かができないと「それはあなたの努力不足だ。“苦手”なんて甘いこと言わないで努力しなさい!」と言ってたのですが、得意じゃないことはいくらやってもできないんですね(笑)。
 往々にして、グラフィックのできる人間は、人前で話すのが苦手なんです。ワークショップができる人はデザインが伸びなかったり。お金の計算については瞬時に計算しながら提案しなければいけないのに、相手がどのくらいの予算を持っているのかという勘所をもてないまま、勝手にあれもこれもやりますと言っちゃう人も居ますね。後になって「どーすんだよ!こんなにやって300万てどういうことだよ!」みたいな話になることもあります(笑)。文章だって赤入れして、緑入れして、青入れまでしても、直らない人がいてね(笑)。ファシリテーションも、いつまでたっても要領を得ないことがありますから。

入社試験はないのですか?
 ありません。定員10人と決めているだけで、来る者拒まずですから。インターンで2、3週間、アルバイトになって何年か様子をみながら、そろそろ一緒にやるか、と。基本的には年俸制ですが、誰でもOKです。努力すれば誰でもできることしかしていない、と考えているので。2、3年鍛えれば人前に出てワークショップを行うこともできるようになるし、人に伝える文章だって、グラフィックだって、最低限のことはできるようになるでしょう。
 ただし、それ以上のレベルを全ての分野について求めることは諦めることにしたよと、昨日メンバーに言ったところです。そのかわり、できることは青天井のように伸ばさなきゃいけないよ、と。これまでは1人1人が独立して回せることが理想だったのですが、今はstudio-Lというチームで補足しながらやっていこうと思っています。最低限のことができて、自分の限界も知っておくことは必要ですけれど。

山崎さんはオールマイティなんですか?
 そうなんですよ(真顔)。
 だけど「なんで僕だけオールマイティにできるんだろう?」と考えてみるとね、結局これはズルイことなんです。だって、たまたま僕ができる5つの分野を、それが「studio-L的な仕事」であるからと言って彼らに与えているだけだから。でも世の中には他にもたくさんの分野があるわけで、その中には僕ができないこともたくさんあるはずなんですよ。言い出しっぺだから有利だっただけだった。それが見えてきたから、考え直すことにしたのです。
 だから他の人ができるもっと違う仕事も何か、出てきたらいいなと思いますね。

今回の本をご執筆中に東北で地震がおきました。
 書き終わる頃に地震が起こりました。当初は中味も全部書き換えた方がいいんじゃないかとすら思ったのですが、一方で、阪神・淡路大震災の時に、人と人のつながりが復興に果たした役割が大きかったことを思い出したのです。あるいは、高齢者や障がい者の方だけを仮設住宅に優先して入居させたことによって、孤独死などが起きてしまったことも。今後東北の復興でも、人のつながりをどう作っていくかということは、重要になってくるだろう、時期としては逆に今が一番いいんじゃないかということもあって、この本を出させていただくことにしました。
 東北あるいはそれ以外の地域でも、人がつながっていくこと、つながった人たちの力が増すことで解決できることがたくさんあると思うので、この本の内容が、そうした人たちのヒントになるとありがたいなと思います。

震災後、既に動きだされていますが、具体的にはどんなプロジェクトがありますか?
 8つのプロジェクトが動き出しています。一番大きく関わるものは、京都造形芸術大学と東北芸術工科大学が一緒に始めようとしている、「こども芸術の家」をつくるものです。東北芸工大は山形にあって、東京から通勤する多くの先生のための宿舎(教職員会館)を持っているのですが、それを明け渡してリノベーションして芸術の力で震災孤児や遺児たちの生活全般を支援する場所にしようというプロジェクトです。このプロジェクトのディレクターをすることになっています。リノベーションをみかんぐみの竹内さんが担当されるのですが、建物全体のディレクションは、Architecture for Humanityのキャメロン・シンクレアに依頼しています。
 運営については、京都造形大と東北芸工大がつくる新しい組織が担当する予定です。資金集めは、両大学にはアート系のつながりがたくさんあるので、国内外含めてアーティストに作品を寄付してもらい、それをオークションにかけて集めようと。難しいのは約10年間のランニングコストです。子ども達が18歳になるまでさまざまなワークショップやアートプログラムを実施するわけですが、そのためのランニングコストとして毎年まとまった資金を集め続けなければいけません。震災の記憶が風化することを考えると、僕の感覚では3年目あたりが凄く大事になってくるような気がしています。今すぐ必要なお金は恐らく順調に集まると思うのですが、その後の資金集めをよく考えなければいけないなと思っています。
何かと親しみを感じるC・シンクレア

 もう一つ、キャメロン自身が立ち上げているSendai Projectも一緒に取り組む予定です。キャメロンは建築家の阿部仁史さんがお持ちの、倉庫のように大きな事務所を借りて仙台オフィスを、クライン+ダイサム事務所を借りて東京オフィスをそれぞれ設け、2箇所を拠点にして活動するようです。5月17日に彼が日本に来るのでそこから仮設住宅のデザインに関するプロジェクトを動かすことになります。そのアドバイザリーボードに、阿部仁史さん、クライン+ダイサムさん、塚本由晴さん、そして僕が入っています。

 Architecture for Humanityの活動は、2週間でやること、2ヶ月でやること、2年でやることという風に段階を分けていたので、2週間プロジェクトは既に終わって総括に入っています。それは、日本語のわからない在日外国人に向けて、NHKや政府から出てくる情報を各国語に翻訳してTwitterで24時間体制でつぶやきつづけたものです。まさに初動期は、地震や原発事故の状況がわからないままどこに行って何をしたら良いのか戸惑う外国人がたくさん居られたんです。

ご執筆当初から、「これまでの“まちづくり本”とは違うものにしたい」と仰られてましたが、完成を控えて感触はいかがですか。
 変わった本ができましたねえ(笑)。こんなカバーデザインになるとは思わなかったです。まちづくり本って、なぜか淡い色の○や△や□の幾何学模様がカバーに使われることが多いんですよね。そういうものが多いなかで、どうせやるなら違うものがいいなと思っていました。実は、以前井口さんが担当した『環境の解釈学』みたいなものになるのかなあ、というイメージでいたんです。

こんな装丁をイメージしてたんだけど…。
 あれが学芸出版から出たときは新鮮だったので。でも「こんな感じで」ということは言わない方がいいと思って黙っていたのですが、予想を突き抜けたものが出てきましたね。自分の手書きの文字に自信がないので、本当にこれでいいのかな…とは思っちゃうんですけど。手にとってくださる方の反応が気になります。よろしくお願いします。

○関連資料
編集者のブログ(山崎亮さんの新刊『コミュニティデザイン』の紹介)

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