中国の都市開発と環境デザイン
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質疑応答

 

 

モータリゼーション化への対応は?

前田(学芸出版社)

 中国は自転車が多い国だというイメージだったのですが、 今後自動車社会になっていく際の対応として、 車・自転車・人との関係はどう調和させようとしているのでしょうか。

三宗

 政策担当者じゃないものですからなかなか答えづらいのですが、 推測としてお答えします。

 中国の20階ぐらいのビルで、 窓の外にずらっと四角い箱が取り付けられているのをよく見かけるんです。 私はそれがあまり気に入らなくて、 なんであんな格好悪いものを取り付けているんだろうと思っていたら、 ウチの所長は「いや、 あれがあるからこそあのマンションは売れたんですよ」と言うんですね。 つまり、 四角い箱とは空調機の屋外機のことで、 「空調機がある家」というステイタスを強調するために見えるようにしているらしいんです。

 車の問題もそれと同じで、 おそらく車を持つことはステイタスと見なされ、 誰も彼もが車を持つことを目指すでしょう。 相当政策的に制限しないことには、 いずれは日本の町と同じように車だらけの光景になりそうな気がします。


意志決定システムについて

難波(兵庫県)

 意志決定システムについてうかがいます。 先ほど、 みんなで議論して決めた結果でも最終的にはトップがひっくり返してしまうというお話がありましたが、 そういうトップの人たちの能力やセンスはどうなんでしょう。

三宗

 私も自分の体験している範囲しか知りません。 とても公平に審査されたと思うこともあれば、 ああひっくり返されたなと思うこともあります。 ひとつの例をあげると、 ある大型開発のコンペで2位になったとき、 後で幹部の人に「残念だけど今回は無理だったね。 審査員の半数以上が北京企画設計院の出身なんだから、 北京企画設計院の案が1位なのは当たり前なんだよ」と耳打ちされたことがあります。 そういう仕組まれたコンペも実際にあります。

 また、 他の国際コンペでは、 我々が1位だったのに共産党の書記がそれをひっくり返したんだと主催者からはっきり聞いたこともあります。 付き合いが深くなると、 こういうことも教えてくれるんです。 書記はこうした分野には全くの素人ですから、 裏で何かあったのかと疑わざるを得ないわけです。 もちろんこういうことは酒の席でポロッと漏れるもので、 公の場では全く素知らぬ顔です。 こういう世界でもあるんです。

 審査員の傾向を言うと、 だいたいいつも20人ぐらいの審査員がいて、 全国の大学から選抜された教授達で構成されています。 年輩の審査員だとやはりオーソドックスな質問、 細かいディテールや納まりについての質問を我々にしてくることが多いです。 もっと若い教授になると、 海外で勉強してきた人が多いせいか、 コンセプチュアルなことに興味を持って突っ込んだ質問をしてきます。

 ですから審査結果でも明らかに中国育ちと海外留学組の違いが出てきます。 コンペの結果を聞くと、 どっちの教授が多数派だったのかがよく分かります。 世代交代が進むと様相はガラリと変わるような気がします。


中国の大学教育

玄道(歴史街道推進協議会)

 中国の大学教育の中での建築学とか都市計画の分野の規模やレベルはどのぐらいなのでしょうか。

三宗

 私は一企業として中国で部分的な仕事しかしていないので、 大学教育の規模とレベルについてお話しすることはできません。 ただしコンペの競争相手として大学を見るならば、 北京企画設計院がこの分野のトップと言えるでしょう。 レベルは高いです。 また、 建築系・都市計画系の分野なら清華大学、 同済大学も優秀で一定以上のレベルがありますが、 今のところコンペの競争相手としては恐れる相手ではないと思っています。 やはり、 北京企画設計院が政治力も含め、 ダントツに強く感じます。

 造園分野については北京企画設計院だけでなく中国の各地方の大学でも、 かなり突っ込んだ研究をしているようです。 地方大学の造園設計の先生のもとへ、 ウチのスタッフを送り込んで教えて貰ったこともあります。 我々の事務所はコンセプチュアルなことは分かるのですが、 造園や植栽についてはやはり現地でないと分からないこともあるので、 それぞれの土地の造園の常識を学ぶ必要があったからです。 その時も、 相当のレベルがあると感じました。


町中の歴史遺産の将来性について

玄道

 歴史遺産としての空間の使い方はどうなっているのでしょうか。 つい先日、 東京で出席した「歴史遺産と都市の発展」という会議では、 北京からの報告として「最近は行きすぎた都市化への反省として、 伝統的な胡同(フートン)の町並みを復元している」という話を聞きました。 今後は、 町中の歴史遺産はどういう方向に向かうのでしょうか。

三宗

 町中の歴史遺産については、 町のリハビリをどうするかということです。 上海の新天地の場合は、 旧市街の一部をさわって補強したりしながら、 機能性を付け加えていきました。 その結果、 集客ゾーンとしてよみがえった一例なのですが、 同様なやり方は今後も大都市では出てくるだろうと思います。

 心配なのは地方の都市です。 一昔前の日本の地方都市では、 新しく首長が誕生するとすぐに新しいコンクリートの建物を建てたがるという風潮がありましたが、 中国の地方都市でも同じような傾向が出ています。 昔の景観を壊すことが新しい政治の力だと思っている人が多いんです。 情けないことだと思います。 やはり、 文化は大都市の中から生まれてくるのかと思います。

 つい先日も広東州の広州市で「沙面」というフランスの旧居留地開発の相談を受けました。 幅が300m、 長さ1kmぐらいの大きなゾーンで、 石造りの建物がズラリと並んでいる通りです。

 最初に案内された時はすでに一部取り壊されていたので、 私はディベロッパーに「こういうつぶし方をするのだったら協力出来ない」と言いました。 なぜかと問われたので「あなた方の歴史をなぜつぶすのか。 我々も同じように昔の建物を次々と壊して、 今どれだけ反省していることか。 日本にもヨーロッパ人が来て作った町があるが、 それは国の歴史の財産だということにようやく気がついて守っているんだ。 それで町を活性化させようと努力しているんだから、 あなた方もそれに気がつくべきなんだ。 完璧に残せなくても、 外壁だけでも残せるんだったら私は協力出来る」と主張したんです。

 そうすると、 分かった、 それは約束するから協力してくれと返事が来ました。 つい先日の話です。 ですから、 大都市ではこういう町のリハビリが受け入れられやすいようで、 これからも進んでいきそうだと思います。 文化レベルがどんどん上がってきていると感じます。

 ところが、 地方ではこういう話は全く受けれられない。 昔の町並みはあっさりと壊されてしまいます。 私は悔しくてたまらないので、 今度市長にあったらそのことを言いたいと思っています。 どうも、 古いものは汚いもの、 だから残すべきじゃないという気持ちが強いんです。 だけど、 このままいくと取り返しのつかないことになりそうだと思えてなりません。


なぜクライアントは古いものが嫌いなのか

任(大阪大学)

 中国から留学中の学生です。 今のお話にあったように、 現在の中国は「世界の建築の実験場」という呼び名もあるように、 文化や歴史を全く無視した建物がどんどん建てられています。 政府の役人や開発事業に携わる人は、 全く見たことのない建物が欲しいようです。 なぜ新しい建物に先人の知恵や歴史を生かそうとしないのか。 その現状についてはどうお考えでしょうか。

三宗

 質問の趣旨に合うかどうか分かりませんが、 私もあなたと同じように疑問に思っています。 中国で仕事をしてきて大分中国人の気持ちも分かってきたつもりではいますが、 この現状について第三者として思うことはまず情けないという気持ちです。 世界の一定レベル以上の建築家を集めながら、 なぜもっとちゃんとした設計をしてあげられなかったのか。 見たことのない新しいものを作るのでも、 飽きのこない堅実なデザインをしなければいけない。 また、 今話したように旧居留地のような昔の住宅街などの歴史遺産をなぜ大事にして残せないのか。 そういうことを考えると本当に残念です。

鳴海

 先生、 彼の質問はそうした建物を依頼するクライアントがなぜ古いものに価値を置かないのかについてのコメントです。

 以前コンペで四合院のデザインをモチーフとしたら、 政府の役人から「こんな昔からあるようなデザインはいらない。 全く新しいもの、 中国的じゃないものがいい」と言われました。 ですから第2案として日本の新しい手法のデザインを出したところ、 「ああ、 こんなのがいい」とあっさり通りました。 でもその時、 私は中国人としてこんなことは間違っていると思ったんです。

三宗

 やはり中国は今何もかもが発展している段階ですから、 無い物ねだりをしていると思うんですよ。 建築や都市に対しての価値観がまだ十分に育っていないので、 発注者側が「変わったことをすればいい」という価値観に支配されているんです。 ですから古いものではなく新しいものこそが価値だと思っている。 私たちはむしろ、 中国の歴史や風土を気にしてものづくりをしていますが、 中国のみなさんは新しいもの、 見たことのないものに目を奪われてしまっている状況で、 悲しいことだと思います。

 もちろん、 クライアントの中にはしっかりした人もいます。 今私たちの事務所に出向してきている技術スタッフは「中国らしいもの、 東洋らしいもの」の価値を分かっています。 30代、 40代の若手ですが、 若い層からきっと中国の本当の良さを分かる人は出てくると思っています。 ただ、 今権力を持っている年輩の人は今さら考え方を変えてくれそうにないという印象です。


養馬島プロジェクトの進行について

河本(シェラプラン)

 先ほどの25km2とというとてつもなく広い敷地の計画についてですが、 そういう巨大プロジェクトの場合、 完成までどのくらいの年月を予定されていますか。

 それと、 日本よりもかなり早いスピードで設計されると思いますが、 設計の密度はどの程度のレベルで実施まで行くのでしょうか。 段階を踏んできっちり行くのかどうか。 その辺の仕事の進め方は日本と大分違うように思うのですが。

三宗

 25km2の養馬島プロジェクトはスタートしたばかりで、 どんな段階を経てゴールを目指すのか、 私たちにもまだ見えません。 日本でいうところのインフラ整備からスタートして、 ゾーン計画など基本的なところをまず押さえて、 その後に細かい部分、 観光開発ゾーンや居住ゾーン、 保存地区などを現地調査を経て具体的に決めていく作業になると思います。 政策的にはすでに島部分をリゾートとして活用したいと要求されていますので、 それを具体的にはめ込んでいくつもりです。

 今は、 現地の状況(島と陸地の間の養殖池をどうするか)について議論しながら絵を描き換えたりしている状況です。 ただプロジェクトのスピードは相当速いと思います。 日本の3倍ぐらいで進むと思います。 沿海部開発がそれぐらいのスピードで開発されていきましたから。

鳴海

 三宗先生、 どうもありがとうございました。 普段聞けないような具体的な話をしていただきました。 開発途上国が発展していくというとマレーシア、 インドネシア、 ベトナムの例が思い浮かびますが、 中国のやり方は随分違います。 私は多分、 人口の膨大さがその背景にあると思います。

 ともあれ、 日本は都市再開発が言われて久しいのですが、 そうこうしているうちに回りの国々はすごい状況になってきている。 そんな中で日本はどういう役割を果たせるか、 その一端が垣間見える報告でした。 今日はどうもありがとうございました。

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