文化財保護の新政策「文化的景観」について
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B。 文化的景観保護制度の概要

 

 ここまで見てきたように国内的動向と国際的動向の二つの大きな流れがあって、 日本においても、 文化的景観の保護が重要だと段々と理解されるようになり、 新しい制度が生まれました。

 ここで、 少し退屈な話になりますが、 文化的景観保護制度の説明をしておきたいと思います。


文化的景観の定義

 まず「文化的景観の定義」ですが、 文化財保護法第2条に「地域における人々の生活又は生業及び当該風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のために欠くことのできないもの」と定義されています。

 この「地域における」という部分が重要で、 名勝地のように国のレベルで高い評価を得ているということだけではなく、 地域に残された固有のものを積極的に保護対象にしていこうという法律なのです。

 また、 法律自体はその生業や生活を保護するものではありません。 しかし、 その生活・生業を営んでいく中で結果として形成された景観地を保護対象とすることになっています。


改正後の文化財保護法の体系

 
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改正後の文化財保護体系
 
 文化財保護法改正後、 新しい法体系の六つ目のカテゴリーとして文化的景観が保護対象になりました。

 これについては文化財保護法第134条の中に、 「文部科学大臣は、 都道府県又は市町村の申出に基づき、 当該都道府県又は市町村が定める景観法(平成十六年法律第百十号)第八条第二項第一号に規定する景観計画区域又は同法第六十一条第一項に規定する景観地区内にある文化的景観であって、 文部科学省令に定める基準に照らして当該都道府県又は市町村がその保存のため必要な措置を講じているもののうち特に重要な物を重要文化的景観として選定することができる」と定められています。

 ここで重要なのは2点です。 一つは、 地域が文化的景観を保護していくときに必ずしも「選定」を目的とする必要はないのですが、 もし「選定」を目的とする場合には、 まずは景観法に基づく景観計画を策定して景観計画区域や景観地区を設け、 その中に文化的景観を位置づけなくてはなりません。 このように、 景観法と文化財保護法の制度が連動している点です。

 もう一つは、 申出をする意思は市町村や都道府県などの地元、 つまり「地域」にあって、 地域が自らこの場所を保護したいと思ったときに、 国に対して「申出」を行う、 という形をとっています。 したがって、 従来の文化財保護法の中でも、 地域に主体性のある制度であるという点です。


どのような景観をどのように選ぶのか?

 ではこの制度の中で「どのような」景観を「どのように」選ぶのかについて少し説明したいと思います。

どのような景観を?
 まず「どのような」の部分ですが、 これには選定基準を設けています。 というのは、 地域がそれを文化的景観であると考えれば、 どのような景観でも保護対象になるとは考えられますが、 やはり地元の中で合意を得ているということが重要ですので、 それを重要文化的景観選定基準という形である程度明らかにしているわけです。

 まずは、 選定基準の第一項で「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された次に掲げる景観地のうち我が国民の基盤的な生活又は生業の特色を示すもので典型的なもの又は独特のもの」と定められています。 これは個別の文化的景観と呼べるものであると考えます。

 これらのうち、 特に「基盤的な生活や生業の特色を示す典型的なもの又は独特なもの」について、 具体的には次のものが選定基準になっています。

     
    (一)水田・畑地などの農耕に関する景観地
    (二)茅野・牧野などの採草・放牧に関する景観地
    (三)用材林・防災林などの森林の利用に関する景観地
    (四)養殖いかだ・海苔ひびなどの漁ろうに関する景観地
    (五)ため池・水路・港などの水の利用に関する景観地
    (六)鉱山・採石場・工場群などの採掘・製造に関する景観地
    (七)道・広場などの流通・往来に関する景観地
    (八)垣根・屋敷林などの居住に関する景観地
 
 「(一)水田・畑地などの農耕に関する景観地」はたとえば棚田ですし、 北山杉などは「(三)用材林・防災林などの森林の利用に関する景観地」の例です。

 文化庁では平成12年から15年にかけて、 これら8種類の景観地についての調査を行っております。 180ヶ所の文化的景観の重要地域と考えられる場所を明らかにしていますが、 このうち(六)(七)については、 今後更に調査を行っていきたいと考えています。

 例えば選定基準を個々の(一)だけ、 (二)だけに基づいて選定することもできますが、 景観というのは基本的に複合しているものなので、 実際には一つの選定基準のみに当てはまる景観はそんなにありません。

 ですから(一)と(三)、 (二)と(五)というように組み合わせて選定することもできます。 また、 選定基準の第2項に「2.前項各号に掲げるものが複合した景観地のうち我が国民の基盤的な生活又は生業の特色を示すもので典型的なもの又は独特なもの」とされているように、 最初から複合したものとして選定対象を選ぶこともできます。

 なお、 例えば棚田景観などで、 (一)の景観だけで形成されているような場所を選定する場合は、 その地域の中で個性的な、 独特な棚田の景観を形成している必要があります。

 

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複合景観
 
 また、 複合的な景観になると、 おそらくわが国で生活や生業に密着している数多の景観が選定対象になってくるのではないかと考えられます。

どのように選ぶのか?
 次にこれら対象となる景観を「どのように選ぶのか」ですけれども、 これについては少し手続き上の問題をお話ししておきたいと思います。

     
     景観法(平成十六年法律第百十号)第八条第2項第一号に規定する景観計画区域又は同法第六十一条第一項に規定する景観地区内にある文化的景観であって、
 
 先ほどもお話したとおり、 「選定」を目的とする場合には、 まず景観法に基づく景観計画を策定し、 そこで景観計画区域または景観地区の中に文化的景観を定めることが必要です。 そのうえで、 その文化的景観に対して、 必要な規制を定めていることが必要となります。

     
     選定の申し出に係る文化的景観の保存のために必要な措置
    (1)景観法その他の法律に基づき条例で、 文化的景観の保存のため必要な規制を定めていること。
 
 というのは、 景観法に規定される景観計画区域又は景観地区の規制は選択制でして、 景観計画の中で規制の粗密をつくることができます。 つまり、 土地の形質変更を含め、 文化的景観の保護のために必要な規制が導入されない場合があります。

 このため、 保護のために必要な措置が不足していると判断できる箇所については、 条例に基づいたなんらかの規制を定めておく必要があるのです。

 なおこの規制は、 景観法に基づく景観条例である場合と、 その他の法律、 たとえば文化財保護法、 都市計画法、 自然公園法、 都市緑地法などに基づく条例である場合が考えられます。

     
    (2)選定の申出に係る文化的景観の保存に関する計画(「文化的景観保存計画」)を定めていること。
 
 次に、 選定の申出に係る文化的景観の保存に関する計画を定めていることが必要となります。

 これは「文化的景観保存計画」というもので、 この中に、 まずは文化的景観の調査を行って価値の証明を行い、 それから文化的景観の保存管理に関する内容を定めます。 その後、 整備活用に関する内容、 運営体制に関する内容をこの計画の中に書き込んでいただくことになります。

     
     (3)文化的景観の所有者または権原に基づく占有者(管理者がいる場合には、 当該管理者を含む。 以下、 「所有者等」という。 )の氏名または名称及び住所を把握していること。
 
 そして三つ目は同意の問題で、 対象となる地域の土地所有者や管理者などの同意を得る必要があります。

 

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重要文化的景観保護制度(パンフより)
 
 説明しました制度の内容を簡単に整理しますと、 (1)景観法で景観計画区域または景観地区の中に文化的景観を定める、 (2)文化的景観に関する調査を行う、 (3)文化的景観に必要な措置、 条例等を定める。 (4)文化的景観の保存計画を策定する、 (5)土地所有者や管理者の同意を得る、 (6)申出を行って選定に至る、 という仕組みになります。

 また、 そのときの経費については、 (1)文化的景観保存に関する調査事業、 (2)保存計画策定事業、 (3)選定後の整備事業、 それからこれは全体を通じてですが(4)普及・啓発に関する事業が国庫補助の対象になっています。


文化的景観保存計画について

文化的景観保存調査のポイント
 さて、 少し具体的に文化的景観保存計画の中でどういうことを示していただきたいかということを説明したいと思いますが、 まず文化的景観保存調査については以下のような内容になっています。

     
    (1)「歴史」「自然」「生業又は産業・生活」の三つの観点から行う
    (2)景観単位の区分を行う
    (3)景観構成要素の特定を行う
    (4)景観単位・構成要素の相互の有機的関係を把握する
    (5)景観認知の把握をする
    (6)以上のことから文化的景観の本質的価値を把握する
 
 ここでポイントとなるのは、 「景観単位」と「景観構成要素」の考え方です。

 現在モデル地区で行っている実験的な試みでは、 景観計画と文化的景観保存計画を同時に策定している所が圧倒的に多いので、 だいたいは、 景観計画区域を景観単位に分類(ゾーニング)することを試みていただいています。

 例えば、 景観計画区域がA〜Eの5つの景観単位に分類されるとすると、 そのうちの景観単位Bと景観単位Dを文化的景観と設定するというように、 景観のゾーニングを景観計画の中にしていただくわけです。

 次に「景観構成要素」の特定ですが、 この景観単位Bについて景観構成要素の分類を行います。 たとえば、 水の利用に関する景観の場合には、 河川・農業用排水路等の区別や、 護岸の仕上げ、 水質、 水生植物の種類などについての詳細分類を検討しています。

 このような分類作業は、 例えばこのコンクリート護岸はかつて石積みだったので石積みに復元した方が良いとか、 ここは今は農地の一部になっているが、 湿地に復元することも検討する、 といったことを地域が決定するための、 資料づくりとなります。

 あと、 もう一つ重要なのは「景観認知の把握」ですけれども、 これは客観的な分析、 例えば土地利用や植生などの構成としての景観だけではなくて、 例えば地元で暮らしている人達やそれを使って生業を営んでいる人達がその景観をどのように把握しているのかを明らかにしていくことにしています。

 これは聞き取り調査を中心に進めるつもりですが、 そこで聞き取った内容をどのようにして客観的に示すのか、 ということが検討課題になっています。

その他の文化的景観保存計画への記入事項
 それ以外で計画に記入していただくことで重要なことと言いますと、 以下のようなものが挙げられます。

     
    (1)文化的景観の位置及び範囲
    (2)文化的景観の保存に関する基本方針
    (3)文化的景観の保存に配慮した土地利用に関する事項
    (4)文化的景観の整備に関する事項
    (5)文化的景観を保存するために必要な体制に関する事項
    (6)文化的景観の保存に関し特に必要と認められる事項
 
 「文化的景観の保存に関し特に必要と認められる事項」は、 これは個々の文化的景観によって異なると思います。

 例えば棚田を保護する場合でしたら、 その棚田に植える稲の種類や農法も重要な景観の構成要素になる、 といったことも想定できると思います。 里山の植生の構成についても同じようなことが考えられると思います。 ですから、 それは個々の文化的景観に関連してその内容を決めていただくということになると思います。

 それから、 先ほど申しました「必要な体制に関する事項」についても、 例えば景観法に定める景観整備機構のようなものを使った方が良いのか、 地元のNPOを使った方が良いのか土地改良区の方が適切なのか、 それらを全て組み合わせた方が良いのかなど、 様々な問題があると思うのですが、 個別の条件に合わせて、 保存計画の中で明らかにしていただくことになります。

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