講演会記録

都心界隈の新しい景観を考えるシンポジウム
〜美しい都心界隈の新たな景観ルールづくりに向けて〜

(2006年度「大学地域連携モデル創造支援事業」)

美しい都市景観の新たな取組に向けて

京都府立大学 宗田 好史


2006年12月17日


主催
姉小路界隈を考える会
NPO法人都心界隈まちづくりネット
立命館大学産業社会学部石本ゼミ姉小路班

記録目次

  • 市民の皆さんはどうお考えですか?
  • 高度地区による高さ規制の見直し
  • 景観地区等の拡大及びデザイン基準の見直し
  • 風致地区の拡大、指定種別の変更及びデザイン基準の見直し
  • 屋外広告物に関する規制の見直し
  • 眺望景観の保全に関する新条例

    ●市民の皆さんはどうお考えですか?

     今日、私がお話したいことは、京都市の新たな景観施策に対して、京都市民の皆さんはどう考えているのかということです。

     新たな景観政策の素案
     ・高度地区による高さ規制の見直し
     ・景観地区等の拡大及びデザイン基準の見直し
     ・風致地区の拡大、指定種別の変更及びデザイン基準の見直し
     ・眺望景観保全に関する新たな条例
     →市民の皆さんはどんな反応なのか?

     そもそも今回の景観政策は5つからなっています。

     1つは『高度地区による高さ規制の見直し』。

     2つ目が『景観地区等の拡大及びデザイン基準の見直し』。これは景観法ができたことによって、今までの「京都市市街地景観整備条例」による美観地区が大きく変わるのですが、今回のデザイン基準見直しは極めて重要な進歩です。それは、今まで日本のどの自治体もやってこなかったようなきめ細かな規制が提案されています。

     3つ目が『風致地区の拡大、指定種別の変更及びデザイン基準等の見直し』。風致地区というのは、美観地区と比べ、過去数十年に遡ってみても非常に効果のあった制度です。一条山やポンポン山等様々な問題はありましたが、幸い我々は大文字山を、今も緑の中に見ることができます。毎朝比叡山を仰ぎ見ることができます。三山に囲まれた山紫水明の京都を守る上で、風致地区は非常に効果がありました。これからも景観行政を進めていく上で、こういう良い例があったことを、まず、きちんと確認する必要があると思います。それに比べて美観地区はやってこなかったわけではありませんが、非常に限られていましたし、街中に関して「建造物修景地区(前の巨大工作物規制地区)」というものがありましたが、風致地区ほど厳しくできなかったため、京都の町並みが壊れたという、美観地区と風致地区の大きな対照があります。

     4つ目が『屋外広告物に関する規制の見直し』。これも全国でも厳しい条例でコンビニやファーストフード、スーパーの看板を小さくさせたり、中間色に落としたりさせていました。今回は、特に烏丸通、四条通、御池通、河原町通など幹線道路のある中京の皆さんにとって非常に大きな関心がもたれる問題です。

     そして5つ目が『眺望景観の保全に関する新たな条例』。大文字山が見えるかとか比叡山が見えるかというのは、中京・下京にお住まいの方にとっては大変大きな課題でした。ただ、これは新たな提案であって、技術的にどう進めていくのかについては、かなり議論の余地のあるところです。

     時を超え光り輝く京都の景観
     ・大部分の京都市民のみなさん、良好な景観をもつ京都市に住み続けることができる
     ・一般の国民、あるいは世界から京都を訪れる皆さん、そn期待に応える京都を守り育てる。
     ・京都で様々な事業を営む皆さん(京都らしさを求める事業者、京都に関係のない事業者)
     ・規制を受ける地区に土地を所有する地権者(それぞれの立場で微妙に受け方が違う)
     ・行政・規制に嫌悪感を持っている皆さん
     では、誰にどんな影響が及ぶのか?

     そもそも今回の「時を超え光り輝く京都の景観」の提案に関して、“大部分の京都市民の皆さん、良好な京都市に住み続けることができる”として喜んでおられます。一般の市民の皆さんの好意的な意見は言うまでもありませんが、経済界でも、島津製作所や京セラなど世界規模の製造業で、どちらかというと京都の街中に直接利害関係をお持ちでないような会社の幹部の方たちからは「京都市はよくぞやった。」「もっと早くやっているべきだった。」「ようやく京都市はやるのか。」というような非常に好意的な評価を伺いました。それから“一般の国民、あるいは世界から京都を訪れる皆さん”は、まさに「ようやく期待に応えてくれるか」ということで、これも大変好意的です。この二つのグループをまず申し上げるのは、今回の提案についてはいろいろ批判をお持ちの方もおられますが、まずここに大多数の賛成派がいるということを確認したいのです。

     その次に“京都で様々な事業を営む皆さん”がいます。そのなかでも京都らしさを求めてご商売をされている方々が京都にはたくさんいます。その方たちは今回の規制について非常に関心を持ってみていますが、この規制の結果、街は良くなるのか、たいしたことはないのか、あるいは良くなるとしても良くなることと比べて受ける規制の方が大きいのではないかという期待と心配を半々もつ方がいます。

     しかし全く京都と関係のない、ただそこでビル建設を請負って儲ける会社や土地を転売して儲ける会社、あるいは土地所有者に駐車場機械を売りつける事業をしている方たちにとっては、多少仕事がしにくくなるでしょう。そんな方たちは「こんな条例ができてやっかいだな」と思っておられるわけです。

     さらに“事業はしてなくても規制を受ける地区に土地を所有する地権者”の方々は、どういう影響を受けるかということに関して、それぞれの立場で微妙に受け方が違います。こうした方々と、京都で事業を営んでいらっしゃる方たちは主に今回の景観に関する資料を読んでくださっているのですが、これでいったいどういう街ができるのかというのは、なかなかわからないわけです。

     それから“行政・規制に嫌悪感を持っている皆さん”がいらっしゃいます。「こんなことは市場原理に任せて自由にやらせておけば良いのに、なんでこんなことまで京都市が口を出すのか」という方たちが、一部ですが確実におられて、特にこの方たちの声が大きいです。

     では、京都市民が皆このように考えておられるかというと、そうではない。50 人の集会があれば、こういうふうに考えておられる方が1〜2 人はいます。このタイプの方は必ず発言されますので、ちょっと不注意に観察していると、お集まりの方々の半分がこのような考えを持っておられるような感じを受けますが、実はそうではない。大多数の方は今回の規制に関して多少口が悪く色んな批判はしますが、基本的には好意的に受け止めていらっしゃるわけです。

     誰にどういう影響が及ぶのかということをわかりやすくするということは非常に難しいですが、一人ひとりの立場の異なる方に、その影響についてきちんと考えるということが必要だと思います。京都市では今回初めて、歴史的市街地のうち京都を代表する中心地区を「歴史的都心地区」と位置づけた。だから高さとデザインによる景観形成事業をうつ、特に地域特性に応じた高さ規制、デザイン誘導の見直しというのが、新たな景観政策素案の二つの柱であり、良好な建築物の誘導手法をさまざまに検討しつつ、五十年、百年先ではない、できるだけ早い時期に更新が進むように努力しますというのが、京都市の姿勢であります。

    ●高度地区による高さ規制の見直し

     関係する人々
     ・これからマンションを建てられる土地を所有している人(所有しつづけたい人、売りたい人)
     ・これからも住み続けたい、事業を続けたいと望んでいる人々
     ・京都で様々な事業を営む皆さん(京都らしさを求める事業者、京都に関係のない事業者)
     ・都市を売買することで開発による利潤を売る人々(悪質不動産業者、一部建設業者)

     さて、その1つ目の『高度地区による高さ規制の見直し』です。色々な質問が出るなかで、まず“すでに高度規制を超える高さのマンションに住んでいる人々”というのがおられます。「私の住まいはどうなるのだと。」すでにそこに建っているマンションですので、そこに住み続けることはできます。それをまず確認しましょう。ただ住民の中には、近々に売らなければならないという立場の方がいます。この方はずっと住み続ける方々とは少し状況が違います。

     この界隈の方々はよくご存知のはずですが、高さ規制が行われるということを業者はよく知っています。この田の字地区(歴史的都心部)のマンションの価格が最近非常に上がっています。それは皮肉な状況です。今12 階のマンションに住んでいる。眺めが良い。しかし隣にも12階が建つかもしれない。隣にマンションが建ったとたんに隣の壁しか見えなくなるわけですから、自分のマンションの価値は著しく落ちます。これは実際に裁判になった例もあります。しかし、今回の規制によって隣に高いマンションは建たなくなります。

     従ってそのマンションが老朽化した後どうなるかはともかく、建っている限りは非常に眺望の良いマンションです。ですから売りたいといえば、買いたい人には歓迎されます。

     住み続けるという方は、既に築20 年を超えているマンションも一部にはありますから、そういう場合はちょっと心配になりますから、非常に微妙な反応をされます。

     ただ「こんなことさえなければ静かに暮らしていたのに」という無関心な方もいますが、一方で今回の規制によってマンションの価格が上がり、一種の規制太りをする方もいます。そういうことに関して、我々はどうすればよいのか。確かに12 階建てのマンションを高いお金を出して買ったのだと思うけれども、その方が悪いとは言いませんが、京都の眺望景観を独占していることの是非(もちろんその原因は京都の高さ規制が緩かったということに因るわけですが)、決して全ての土地に高いマンションが建っているわけではないのに、緩い規制のなかで高いマンションが建ってしまったことによって発生した不公平をどうするのかということを(非常に難しい問題ですが)、考えないといけないわけです。

     それから“これからマンションを建てられる土地を所有している人々(所有し続けたい人、売りたい人)”がおられます。所有し続けたい人は、別にこれによって地価は下りません。一部実証に基づかずに、高さが下れば地価が下るとおっしゃる方がおられます。高度経済成長の頃はそうだったかもしれません。今でも東京の都心だけでは、十分な経済力があり、そこで高さ規制を緩和することによって、開発が起こりました。しかし、開発のためというより、開発が起こる前から投機が起こり、地価が上ったのであって、その結果、規制緩和、地価高騰、バブル崩壊と続きました。そのために、膨大な国民の税金を使って銀行や不動産会社や住専の損金の穴埋めをしました。従来の土地神話にまだ懲りない人がいます。高度地区の規制が緩まれば、また地価が上って景気が良くなるなどと、もう考えてはいけないのです。

     現実には、町並み審議会以来、マンションへの高さ規制が始まって、この界隈では地価は上がっています。マンションだけではなくて、商業地の地価は上がって、ミニバブルだとも言われ、心配する人もいます。つまり、京都市が景観を守ろうという取組をすると、この街の格が上って、この街が賑わうために、もっと土地が欲しいと思う事業者が集まっているからで、実は所有し続けたい人たちにとっても、売りたい人にとっても、損ではないのです。ただ、今すぐ急いで売り逃げたい人は、このことで市場の様子見が心配だと思っている。

     さらに“これからも住み続けたい、事業を続けたいと望んでいる人”はたくさんいます。中京は確かに新しい住民の方が来られるので人口が増えていますが、古い住民の方もしっかりと住んでおられる。町家に住んでおられる方、町家ではなくても規制の範囲に収まるようなビルをお持ちの方、あるいはマンションに住んでおられる方というのは、このまま住み続けるためには、どんどん野放図にマンションが建って町並みが壊れるより、住環境が守られるわけです。

     そもそも今日ここにおられる姉小路界隈の皆さんはじめ、建築協定を結んだ地区の方々は、皆さんここに住み続けたい、ここで仕事がしたいがために、まちづくりに取組まれた結果、苦労して建築協定まで到達され、それをさらに更新するという取り組みをしていらっしゃる。この方々にとっては、今回の高度地区による高さ規制の見直しは大歓迎であるはずなのです。この方たちが声を大きくしないと、7割8割の市民が支持しているということが伝わらずに、土地を売買することで開発による利潤を得る人々(悪質不動産業者、一部建設業者)の意見ばかりが声高に通ってしまうわけです。

     この悪質不動産業者というのは例えば、リクルートコスモスのことです。この前ここにお邪魔した時は、皆さんも私もあのマンション建設に反対していました。一棟だけ高い建物を建てて、通りの調和、美観を乱し、隣近所に迷惑をかけた建物です。皆さんも、また京都商工会議所の皆さんも、京都の街中での建て方の作法を丁寧にご説明しましたが、リクルートコスモスは「これは自分の権利だ」といって、強引にあんなマンションを建てました。何が良いことがありましたか。リクルートコスモスは京都に何の貢献もせず、自分だけ儲けて、外部不経済を垂れ流し、周りの皆さんに迷惑をかけ続け、街を壊して去っていきました。不幸なことに、たまたま土地がリクルートコスモスのような会社に渡ったために、皆が「よせ」とあれだけ言うのに、自社の利益だけを考えて、御池通の景観を壊しました。とんでもない会社だと思います。私は一人のまちづくりの研究者として、とんでもない会社だと思いますが、あの会社からマンションを絶対に買うまいと思うのは、私だけではないと思います。ああいう業者を許していいのですか?新しい規制を実現しないと、似たような業者、もっと小さいのもたくさん来ます。彼らは京都のことなんか何も考えない。商工会議所の方々のお話を聞くと、あの会社は京都のことを全く考えてない。これでは京都でご商売をされる方はたまらないのです。もちろん、そのマンションの近くにお住まいの方はもっとたまらないのですが。せっかく京都市が従来のまちづくりの方向を変えて、東京型ではない、京都に相応しい景観政策を、この街の生き残りをかけて真剣にやろうという時に、あんなことをする不動産業者の主張を聞くことはできない。そのリクルートコスモスの手先になって、設計した業者も京都にいます。あの仕事を請け負った業者がいるのです。この人たちの言い分を通したら、京都の街と、その文化が壊れます。

     今ここで、体をはって止めないと、またリクルートコスモスのようなマンション問題が起こるのです。そのことを皆さんはよく知っているはずです。今回の規制に反対しているのは、“土地を売買することで、開発による不当な利益を得る人々”だけです。一般の市民の方々には、きちんと説明し、丁寧に議論していけば十分わかっていただけるものだと思います。

    ●景観地区等の拡大及びデザイン基準の見直し

     関係する人々
     ・京都らしい良好な町並み、景観自然環境の中で暮らしたい人々
     ・そのままそこに、住み続けたい人々
     ・これから良好な住環境を求めて移り住みにくる人々
     ・住宅開発をしたい事業者(安い住宅を大量に供給したい、いい住宅を建てたい)
     ・急いで土地を売りたい人々

     次に、『景観地区等の拡大及びデザイン基準の見直し』についてです。私は京町家再生研究会の理事ですが、京町家友の会にご参加いただいて町家を守りたいとする方を始め、今も京町家を大切にされる方々、“京都らしい良好な町並み、景観、自然環境の中で暮らしたい人々”は、皆さん大賛成でしょう。町家にお住まいであるとか町家関係の方々は、皆さん一家言もっていらっしゃいますから、今回の見直し案の細かい表の中に書いてあることを見ると、瓦の材料や屋根の勾配など、字句の訂正などが必要だという方はいらっしゃるでしょうが、基準そのものには賛成はされると思います。また“そのままそこに、住み続けたい人々”にとって、今回のデザイン基準の見直しは決して悪いことではありません。

     ただ“直ぐに住宅を建てる・建替・改造する人々”という方がおられて、この方たちがこの基準に多少ひっかかると思っておられるわけです。

     でもどうでしょう。基準を示されたから困るのは、その施主(自分で住宅を建てる人)なのか、その施主に今住宅を売りたいプレハブ住宅メーカー、建売業者、あるいは設計事務所、工務店かもしれない。今回の新たなデザイン基準が見直されることで、これまでの全国どこにでもある住宅の形が基準に合わなくなります。でも、より優秀な建築家が来て、タダで、お宅の家はこうすると京都らしく、もっと素敵になりますよと教えてくれているみたいなものなのです。町家のある町並みに調和したもの、山麓や世界文化遺産に調和したものになります。これは、住宅を建てる方々には良いことでしょう。例えば、安物の服を売る店で、今まさに安い服を買おうとしているお客さんに、ファッションセンスの良い人が通りかかって「そんな服より、もっとオシャレになれますよ、安物買いの銭失いですよ。」というようなアドバイスをする。店員さんは怒りますが、お客さんにはいい。同様に、今回の基準は実は建てたい人にとってはいいアドバイス、有難い指針なのです。センスのいい自宅と町並みが手に入るのです。

     ところが、せっかく今住宅が売れそうだ、このままならうちの安くて荒い仕事でもお金が稼げると思う人は「何を面倒くさいことを言う」と目障りに思う。実はこの基準は、建てる人、改造する人にとっては実はお得なことなのだけれど、一部の質の悪い住宅業者にとって、今は損かもしれない。彼らに面倒な努力を強いることになるからです。

     それから“これから良好な住環境を求めて住む人々”にとっては、実はもっともっときれいな街になるはずだから、ますます大歓迎です。もちろん“住宅開発をしたい事業者”の中でも、良い住宅を丁寧に建ててきちんと利益はあげる、良い住宅事業者にとっては、問題はない。むしろ悪質業者を駆逐し、質を競う競争が起こり、業界も消費者も発展する道なのです。ただ“急いで土地を売りたい人々”にとっては多少面倒なまま、あまり良いことはないかもしれません。

    ●風致地区の拡大、指定種別の変更及びデザイン基準等の見直し

     関係する人々
     ・京都らしい良好な歴史的景観、豊かな自然環境の中で暮らしたい人々
     ・そのまま三山麓の周辺に、静かに住み続けたい人々
     ・これから良好な住環境を求めて移り住みにくる人々
     ・住宅開発をしたい事業者(安い住宅を大量に供給したい、いい住宅を建てたい)
     ・急いで土地を売りたい人々
     ・世界文化遺産等の周辺にお住まいの方々

     3つめの『風致地区の拡大、指定種別の変更及びデザイン基準等の見直し』についてです。これはこれまでの例とほとんど同じです。ただ、世界文化遺産周辺にお住まいの方々というのは、ちょっと関係が変わってくるかもしれません。この関係を見るのに、少し風致地区の現在の様子を見てみましょう。

     京都の風致地区というのは、三山の麓にあって、半島状に突き出した部分と、下賀茂神社のように飛び地(島)状に分布している風致地区があります。風致地区は第一種から第五種までありますが、種別によって緑被率が違います。第一種で40%以上、第二種で30%以上、第三種で20%以上、第四種で20%以上、第五種で20%以上とだんだん下っています。これは単に建蔽率の逆算をしているわけではなくて、実際に風致地区の中でどのくらい緑に覆われているかということを、1mメッシュをかけ、航空写真から私の研究室で計算したものです。

     西賀茂毘沙山や鳴滝山越や清水阿弥陀ヶ峰をみると分かるように、風致地区内でもこの半島状の緑被率は極めて高い。併せてこの風致地区のすぐ外側の住宅地で所も、風致地区のお陰で非常に緑被率が高いのです。

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     さて、飛び地状の風致地区を見ますと、緑被率は高いのですが、双ヶ岡西と本願寺別院の二箇所では、条例の基準を満たさない緑被率になっています。また、その周辺部の緑被率は格段に低くなっています。このまま放っておくと、世界文化遺産の周辺でも飛び地状の風致地区とその周辺部はどんどん荒らされていきます。ですから他の規制、美観地区などでもその通りだけはきちんと守られているけれども、その周辺にどんどん差が出てくるということです。

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     実際、同じ飛び地状でも、規制が強いところではまだ周辺部の緑被率が高いのです。飛び地状は地区内と周辺部の差が大きいですが、半島状では差が小さい。半島状は和風の住宅が多く落ち着いた町並みが形成されています。特に、第一種風致地区は和風の住宅が多いのですが、第二種になると(大徳寺周辺、上賀茂神社周辺)マンションや建売住宅が多くなり、町並みが調和していません。丘陵地も付近に幹線道路が通っていると、マンションや建売住宅が多くなります。周辺にマンションが目立つ飛び地状、全体的に一戸建ての和風住宅が多い半島状という対比があります。従って今後はこの風致地区の拡大をしていただいて、島状になっているところと半島状になっているところを結ぶということもありますし、段階的な地区指定をしていただいて、風致を広げていく。さらにより細かいデザイン規制によって、風致地区の和風住宅を潰してパステルカラーの建売住宅がずらっと並ぶようなことをやめてほしいということです。

     80年も前から始まった風致地区制度はたいへん効果が高く、今でも三山の景観は京都の誇りです。しかし、その風致地区の保全の現状にも厳しいものがあります。世界文化遺産を抱える京都市では、より厳しい規制が不可欠です。今回は風致でもより丁寧な景観政策が進むのです。

    ●屋外広告物に関する規制の見直し

     関係する人々
     ・広告主(屋上・突出/袖・平付)によって違うが、時代遅れの大型看板の広告主の多くはサラ金、見逃すのか?
     ・既に規制対象となる広告物を持っている人々(最近広告物を設置した、長年放置)
     ・都心でもビルの入居企業は変わってきた、必ずしもすべての企業が大型看板を必要としない
     ・アーケードのある商店街の事業者、都心で高品質なブランドを売りたい人々
     ・いつまでも広告物収入をあてにする人

     さて、四つ目の『屋外広告物に関する規制の見直し』です。屋外広告物には、屋上・突出(袖看板)・平付という主に3つのものが建築に直接関係するものとして、今回規制の対象になっています。この看板には、どんな広告主が多いと思いますか。

     実は、街中には昔から看板はありますが、その広告主は時代とともに変わっています。

     私は1980 年代にイタリアに留学していたのですが、ミラノのドゥオモ(大聖堂)広場に行くとパナソニックと書いてある。ローマのテルミニ駅前にも、ソニーや東芝の看板がありました。ヨーロッパの街はどこでもそんな状況だったのですが、そのうちだんだんそんな看板は姿を消しました。当時イタリア人からよく言われたのが「なぜ日本企業は至るところに看板を出すのか。そんなことしなくても我々はパナソニックもソニーもよく知っていて、たくさん買っている。日本人はなぜあんな野蛮なことをするのだ」。さすがに最近では、ヨーロッパの街から日本企業の広告物が少なくなり、代わって今は韓国や中国の企業が看板を大きく出しています。

     同じように京都でも、昔大きな看板をあげていた一流企業の広告物が減りました。その代わり増えたのがサラ金です。営業停止になった悪徳企業の看板も上っています。これは景観問題というよりも、より深刻な社会問題として考えねばならないことです。昔看板を出していたソニーもトヨタも優良な企業です。同じ都心に看板を出すからと言って、サラ金業者さんは優良な企業とはとてもいえない状況です。同じ大きさの看板を出しているからと言って、さっと入っていってお金を借りてしまう。しかし、電化製品や車を買うようには幸せになれません。利子だけを半永久的に払わされるような過酷な生活が待っているのです。こういう社会的問題のある企業の大看板を出しておいていいのでしょうか。サラ金だけでなく、風俗の店も同様です。街中の広告物には社会性があり、企業の社会的責任も考える必要があります。

     さて、今回の規制強化で、“すでに規制の対象となっている広告物をもっている人”たまたまそういうお話があって、広告業者さんに言われてビルの上に大きな看板を立てて作ってしまった人。これから広告料収入を期待している人は予定が狂い困るでしょう。

     ただ長年大型看板を設置されて、広告料収入を十分得られて、広告の鉄柱の減価償却が終わっている方もたくさんいる。この方たちはそろそろ考えていただきたいということです。ソニーに貸していた頃とサラ金に貸しているのとでは大分違う。そろそろ広告の社会的責任をお考えいただきたいということです。そういう方たちには、京都の景観や社会的責任、看板の意味について、きちんと説明すればわかっていただけます。

     さらに都心でもビルの入居企業はずいぶん変わっています。銀行や証券会社が入っていたのが、統廃合で随分少なくなりました。その代わり飲食店や美容院、エステ系や学習塾が増えています。昔は、室町は繊維問屋が集まる通りでしたが、今は学習塾の集まる通りです。ですから昼間は割合交通量が少ないですが、夜になると塾帰りの小学生、中学生を待つ車で渋滞しています。そうなってくると、ビルの看板もサラ金や風俗営業の看板が出ているのは考える必要があります。入居企業が急速に変わってくるなかで、どういう広告物の出し方が良いのかということも、ただ規制をするだけではない、我々が京都の街のあり方を考える上で検討しなければならないことです。

     さらにアーケードのある商店街、それからアーケードをとろうとしている商店街があります。この商店街にとって美しい町並み、賑わいのある景観とは何かということです。例えば都心で高品質なブランドを売りたい方たちにとって、その横に変な大型看板が出ているというのも望ましくないし、京都にふさわしい町並みの中で自分のブランドをどうやって売っていくかということに関して、決して悪い規制ではない。そうは言っても、いつまでも広告物収入をあてにする方もいます。この方たちは何も起こらず今のまま、どんな企業であろうと、広告物収入が入ってくればいいとお考えになっているので、この方たちへの説明は難しいでしょう。

     それから一部の広告業者がいます。京都市は厳しく広告物業者さんに対応されているし、許認可制があります。でも、彼らは広告の社会的責任を考えることなく、どんな企業の注文にでも応じてどうどうと看板を出します。過酷な取立てで自殺者を出し、利子の取りすぎで営業停止になった企業の看板を出したことを反省する広告業者はいないと思います。社会性のことを考えずに、自分の利益だけを主張して、規制強化に反対する。厚顔無恥な主張をします。

     実は世界的に見て、屋外広告物の規制が厳しくなったことによって、潰れた広告物業者はいません。なぜかと言うと、安物の大きな看板を作っているよりも、厳しい基準の中でより高価な質の良い広告物を作っている方が利益率は高いからです。ローマ市、フィレンツェ市では非常に厳しい基準を持っていますが、そのことによって、グッチやフェラガモといった店の広告物が小さく、しかしエレガントに、そして高価になりました。普通の看板ではありません。ブロンズとか大理石といった材料を使って、その裏側には単純なランプなど使いません。きれいに後ろの壁を照らすような、アレンジされた発光ダイオードを使います。そうなれば請負金額は上りこそすれ、売り上げが落ちるということはありません。

     京都の広告物業者がより高度に技術をアップし、そのうち京都らしい上手な広告物が作れるようになれば、東京や大阪の仕事もとれるというように、どんどん伸びていくわけです。ちょうど日本で排出ガス規制が厳しくなったことで、日本車がますます世界市場に進出するようになったのと同じように、規制を厳しくすれば業者は伸びるわけです。ただ怠け者で技術革新なんかしたくないという業者さんは反対するわけです。ですからきちんと説明してご了解いただくということが必要になるわけです。

     私たち京都市民にとって、一部の広告業者から反対されたからといって、今回の規制を緩めたり、遅らせたりすることがあってはいけません。私たちまでもが厚顔無恥になってしまいます。

    ●眺望景観の保全に関する新条例

     関係する人々
     ・世界文化遺産周辺にお住まいの方々
     ・大部分の京都市民の皆さん、良好な京都市に住み続けることができる。
     ・一般の国民、あるいは世界から京都を訪れる皆さん、その期待に応える京都を守り育てる
     ・京都でさまざまな事業を営む皆さん(京都らしさを求める事業者、関係のない事業者)
     ・規制を受ける地区に土地を所有する地権者(それぞれの立場で微妙に受け方が違う)

     さて、5番目の『眺望景観の保全に関する新条例』についてです。これは眺望景観保全のための標高による高さ規制というものです。今までは地面の高さから何メートルということで、高度規制をしていましたが、地面には起伏があり、見通しの確保には不十分です。街中からの眺望線のためには、標高によって高さ規制をしなければならないのです。そして、視点から始まるその眺望線の下一帯が、その高さを抑えないと見通しがききません。

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    京都市都市計画局都市景観部『新たな景観政策の素案について』(平成18年11月)より
     今まで例えば、川沿いにあった美観の考え方であれば、自分のところの景観が良くなれば、おしゃれなレストランが入るようになる、眺めのいいきれいな家に住めるということで、規制をうけるメリットがあったのですが、鴨川沿いの視点場から大文字までの、鴨川から山麓一帯、ビルの間に住んでいらっしゃる方でも規制の対象になります。その高さまで上れば、どの家からも眺望はきくのですが、上らない限り眺望は楽しめない。これは、京都でも経験がなく、全国でも初めての取組みですから、ご理解をいただくのは非常に難しいかもしれません。でも、これは皆が等しく眺望権を享受するために考えうるルールです。

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    京都市都市計画局都市景観部『新たな景観政策の素案について』(平成18年11月)より
     また、世界文化遺産の周辺にお住まいの方々もいろいろ影響を受けることになります。身近に世界遺産がある方々は、ご親戚やお友達が来るたびに、金閣・銀閣などのお庭を歩く機会も多いでしょう。そんな時、向こうに高いマンションが建っているよりも、眺望が守られていることを皆さんで喜んでいただく、そのためにもご理解を頂きたいものです。

     この新条例も、“大部分の京都市の皆さん、良好な京都市に住み続けることができる”という方々は非常に喜んでいます。また“一般の国民、あるいは世界から京都を訪れる皆さん、その期待に応える京都を守り育てる”という方ももちろんいいのですが、“京都で様々な事業を営む皆さん”あるいは“規制を受ける土地を所有する地権者の皆さん”では受け取り方が随分と違ってきます。

     この辺の方たちにどういう説明をしていくかということにおいては、実はこの5番目の『眺望景観の保全に関する新条例』が非常に難しいわけです。この場合は、恵まれた京都の景観、豊かな自然、歴史、文化からくる美しい街というものを我々がどう享受するか、そのことの喜びと、それによって一定のご負担が及ぶかもしれない方たちに対して、きめ細かな対応策が必要になってきます。我々は過度に補償しすぎてもいけないし、そのことによって住み続けられなくなるようなことがあっても、もちろんいけない。ある特定の方に集中して不利益が及ぶようになってはいけないということに十分配慮しなければならないのですが、そういう時期に来ているのだろうと思います。

     京都で既に建築協定を経験された方々は、規制と誘導を受けることで、自ら住環境・景観を守ってこられた方です。困難さだけではなく、その成果も日々体験されています。また、協定をつくる過程では、今日のお話と同じように、ご近所でもそれぞれ立場の異なる方々と一人ひとりお話をされて、その立場を斟酌しながら、どういう線でご了解いただけるかということに大変苦労されてきました。だからどうしても規制区域がいびつになった場合もあるだろうし、規制内容が一段弱いものになったかもしれない。そういうところで苦労してこられた皆さんが、広い京都市全体において、異なった立場の方たちがどういう発想でいて、どういう反応をされるのか、そしてどうすれば一日も早く合意形成ができるかを、是非今までの経験から我々に教えていただきたい。その意味で皆さんの経験をこれからどんどん発信していただかねばならないし、それは新しい条例がというよりも、立場の違う京都市民がどのように「時を超えて光り輝く京都の景観づくり」を語り合いつつ考えるかという一点に尽きると思います。

     その多様な受け応えに対して、どうやって皆さんで美しい京都を残していくかという議論が展開していく、そういう質の高い街づくりを展開していただくことで、京都市が今回手がけた日本で初めての非常に大胆な景観政策に対しての、市民を挙げての大きな取組になると思います。景観政策というのは京都市の専門家だけがやっているわけではありません。実はここで二十年三十年にわたって住民の皆さんが積み上げてきた合意形成の経験から発生してきたものであって、それが京都の景観行政を変えたのだというところまでもっていくためには、もう一つ皆さんの大きなご努力ご協力がいるのだろうと思っています。

     全市に一歩先んじて、時を超えて受け継がれる町並みを建築協定で守った皆さんは、その成果も日々享受されています。守られた景観を享受することのすばらしさを、大きな声で是非訴えていただきたいと思います。

     ありがとうございました。

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