作家たちのモダニズム
建築・インテリアとその背景

はじめに


モダニズムを学ぶ目的

 現在と、そして近未来に求められる生活空間や環境の質とはどのようなものだろうか。それはいかにして実現できるのだろうか。一般の生活者にとっても、また環境全般のデザインに何らかのかたちで関わる建築家、インテリアデザイナー、都市計画家などの専門家にとっても、これは極めて基本的でしかも今日ますます切実な問いかけである。この問いに対する答えを得るための手がかりを求めることが、モダニズムを学ぶ目的である。本書におけるモダニズムとは、「近代」という時代に新たに出現した社会的・文化的価値観に根ざすデザイン一般の特徴を指している。そして、19世紀末から、1950年代までの欧米の建築を中心に、住宅、インテリア、家具を対象として扱っている。
 我々が好むと好まざるとにかかわらず、モダニズムは現代デザインの基盤になっており、その歴史的背景としての近代は現代と近世以前を明確に分けている。したがって、現代デザインの手がかりを求める際に、その基盤となるモダニズムの有効性と限界や、その背景との関わりを検討することを避けて通ることはできない。

本書の読み方:自分に引き寄せて考えてみること

1 自分ならどう生きるか

 モダニズムを学び、その成果を活用するためには、我々日本人は二重の努力をしなければならない。まさにモダニズムが誕生し展開した欧米の社会状況についての理解と、モダニズムを取り込んで自らのものとしてきた近代の日本についての理解である。この努力は、デザインそのものへの創造的意欲と共に、体系的把握と分析的思考のために膨大なエネルギーを要求する。
 本書では、モダニズムを代表する欧米の14人の作家を取り上げ、その時代背景、生涯、理念・方法、作品について解説している。これらを自分に引き寄せて等身大でモダニズムを考えることを通じて「生きたモダニズム」を理解することが本書の目的である。「生きたモダニズム」の理解は、さらに「私のモダニズム」をつくっていく出発点ともなろう。本書から、自分自身の歴史を見る視点を発見してもらいたい。なお、本書では、読者の多様な興味に応えるため、建築から家具までを作品として実現した作家を重点的に紹介している。
 @時代背景:まず、各作家が活動を始める前後の、建築をめぐる社会的・文化的状況について解説している。デザインは芸術と同時に社会と深く関わっており、歴史上重要な建築デザインの流れも、社会の変化や新しい問題の出現と共に起こった。本書では、このようなデザインの流れに何らかのかたちで関わった作家を取り上げている。作家たちの活動と主な建築デザインの流れをまとめた相関図も参考にしながら、現在の社会状況と引き比べてもらいたい。
 A生涯:次に作家としての生涯を紹介している。原風景となる生い立ち、建築の学習と修業の方法、作家としての設計活動のやり方と社会的立場などについてである。興味を引かれた作家については、生きた時代、社会、生い立ちと、自分自身の状況を引き比べ、自らの作家としての生き方を探ってもらいたい。

2 自分ならどう考え、どうつくるか

 B理念・方法:次に、作家たちが設計活動を行うにあたって拠り所とした理念と方法について解説する。一般に、デザインを仕事とするなら、独創的な何ものかを生み出す特別な才能がなければならないと考えがちである。確かに才能は重要だが、それより目に見えないコンセプトを「かたち」にするプロセスに苦しみを上回る歓びを感じるかどうかである。このプロセスが独創的と認められる作品を生むのは、神話のように「無」から「有」を生み出す才能によってではなく、独創的な理念と共に発想され、独創的な方法によって完成度が高められた時である。
 本書で紹介する14人の作家たちも際立った理念と方法を用いた。しかし彼らは、それらをもまた「無」からつくり出したわけではない。各々が生きた時代の社会的現実に対して、作家として過去の歴史や同時代のデザイン運動の中から理念や方法を自らが選びとり、自分なりに展開したのである。それは、少なくとも表面的な形態の模倣とは全く異なる行為であり、作家の独創性と深く関わるので各作家ごとに比較してもらいたい。また、自分なら、同じ時代に生きてどのような理念や方法を用いるか、同じ着想でどのような理念や方法に向かうか、などについても考えてもらいたい。
 C作品:次に、作家たちの理念と方法が実際の設計活動にどのように反映されているか、建築から家具にわたる作品から読み解く。作家の理念や方法を理解した上で、自分ならどのような理念・方法を用い、どのような作品をつくるかを考え、その結果と作家の作品を比較してもらいたいのはもちろんである。本書では、大半の章でまず代表作品を紹介し、さらにその他の重要な作品を紹介している。
 しかし、作家にとっての理念や方法は、数学や物理学の公式のような固定的なものではない。何をいかにしてつくるかという問いに対して、作家の理性と感性を最も自由に解放するための道具なのである。作家とは、本来考えながらつくり、つくりながら考える存在であり、その過程の中で理念・方法という道具はますます発展し使いこなされる場合もあれば、社会的有効性や個人的興味の変化ゆえに放棄される場合もある。したがって、自分自身に適した道具を探すためにモダニズムを学ぼうと思うなら、興味のおもむくままに作品全般の紹介を読んでもらいたい。そして想像の中で、作品の前に立ち、作品の中を歩き、家具に触れてもらいたい。そこから、どのような時代の要請で、またどのような考え方によって、それらがつくられたのかを考え、本書に紹介された内容と比較してもらいたい。
 以上のいずれかを実行した読者は、本書の内容だけでは満足できないはずである。章末の参考図書の一読と同時に、実際の空間体験を是非お薦めする。