『これからの建築士』編著者
倉方俊輔さん (建築史家)によるプレビュー

『これからの建築士』編著者の倉方俊輔さんが、ご自身のフェイスブックでインタビューの感想などを連続して投稿してくださいました。
ご本人の許可を得て、下記に転載いたします。(日付はフェイスブックへの投稿日)

1. HandiHouse project  2. 仲俊治・宇野悠里  3. SPEAC

1. HandiHouse project (2016年2月8日)
 含羞が余計で、自分が書いた本はうまく宣伝できないのですが、これは他の方々の優れた仕事を紹介したもの。だから、思い切って宣伝できる、この気持ち良さといったら!
 『これからの建築士』が2月25日に発売されます。
 建物を設計するだけでない「建築士」の活躍を浮かび上がらせたいと、東京建築士会が昨年に始めた「これからの建築士賞」。その第1回の1次審査を通過した17者のバラエティを全体として伝えたいと思い、学芸出版社からの本になりました。
 全体、というのは、リノベ系とかまちづくり系とかアーキテクト系とか保存系とか、ついクラスタ化して考えがちな現在の試みを、つなげて捉えられるようなものにしたかったのです。
 そうしたことは、webより、記事より、本というオールドメディアの出番じゃないか。
 そして、本が本らしくあるためには、ただ記事を寄稿してもらうだけではなく、17者すべてと対話して、話して分かったことをもとに寄稿文の内容にも細かく注文を出すべきだろう。それが敬意を表すべき、すべての応募案の活動に応えられる、唯一の方法ではないか。
 そんなことで、吉良森子さん、中村勉さん、それに佐々木龍郎さん(は実質的に)が、お忙しい中、共編著されました。
 17者の冒頭を飾る「HandiHouse project」のインタビューには、実は私、時間が合わずに参加していないのです。
 でも、なんのかのより、この気持ちよさといったら! をベースに活動の場を広げている彼らに、2014年3月のリノベーションスクール北九州で会って話して、感銘を受けました。セルフリノベコースの参加者が、本当に生き生きとしていました。そこにはエンターテイナーとしての自覚と、なぜそうしているかという思想がある。
 「これからの日本の建築は、より明るく文化的に、生活に根ざして広がっていくのではないだろうか」
 とは、書き下ろしていただいた文章の一部。自分たちの取り組みと、それに対する反応が図版キャプションの一つ一つにまで、丁寧に綴られています。今回の本が、行動と思想とを垣間見せるものになって、良かった。

2. 仲俊治・宇野悠里 (2016年2月12日)

 17者の2つ目は、仲俊治さん・宇野悠里さんによる「食堂付きアパート」です。
 この本は、昨年から東京建築士会で始まった「これからの建築士賞」の選定作を編んだものなのですが、何が受賞対象かというと、「未来につながる社会貢献〈中略〉さらに、これからの建築士の仕事を開拓するような、従来の建築士の枠を拡げる活動」となっています(同賞の応募要項より)。
 そこからすると、2014年に竣工した「食堂付きアパート」は、同賞の中で最も「これまで」の建築賞っぽいかもしれません。
 もので言えば、単体の建築物だし、有名アトリエ事務所を出た建築家の「作品」とも位置付けられます。17者の中でも、実は例外的。
 でも、そんなことはないのではないか、という議論の上で選定。
 こうして本になって、違和感の無さに改めて驚きます。
 「これから」らしさを広げてくれたのが、仲さん・宇野さんによる論考と対話です。
 通常、メディアに載るのは、住民が入る前の竣工時の建物の姿。設計者が語る言葉も、そこに至るまでの話です。
 あるいは近年は、建築というより、住まいの視点から、竣工後の姿がクローズアップされることもありますが、そちらは数十年経ったものが一般的。また今度は逆に、住み手が語る場合が圧倒的に多いです。
 それに対して、今回は、珍しい「現在進行形」の記事になっています。
 「食堂付きアパート」の運営上の話や竣工してからの出来事を中心に書き下ろしていただきました。計画やデザイン面については、すでに様々な建築雑誌などで発表されていますので。
 SOHO住戸として想定した5戸は、蓋を開けてみたら、どう使われているのか? 立体路地の使われ方は? 食堂の運営方法は?
 こうした話が魅力的なこと自体、「食堂付きアパート」の特徴をよく示しています。
 「通常の建築士の仕事は建物が竣工したら終わりです。なぜ竣工した後もずっと関わっていきたいと考えられたのでしょうか。」という吉良森子さんの質問から、対話のパートは始まります。
 施主や地域の方々とのヒューマンなつながりを述べた後に、山本理顕さん(仲さんは山本理顕設計工場のご出身)の「地域社会圏」との関係性、そして「小さな経済」の思想へと、ぐっと向かう感じは、ご一緒していて私もスリリングだった。これが建築。
 実は、邑楽町役場の経験が効いているということは、私も初耳でした。さらに驚いたことには、担当編集者の実家が群馬県邑楽町だという。あのゴタゴタの時にはまだ中学生だったけど、大学で建築を勉強し始めてからずっと引っかかっているテーマだったとのこと。
 どこで何がつながっているか分からない。人に歴史あり。
 「作品」というだけでなく、そんな厚みも『これからの建築士』という本の全体に出ているといいなあと思います。

3. SPEAC (2016年2月15日)
 収録されている17者のインタビューのうち、12者は参加しましたが、SPEACには、私は行かなかったのです。 活動の概要と意義は理解しているつもりだし、自己の表現もきちんとしているから、無理に大阪から訪れなくても大丈夫だろうと。
 この本のもとになっているのは、東京建築士会が昨年スタートさせた「これからの建築士賞」です。
 個人的な話ですが、最近、賞の選考をする機会が増えてきた。
 その際、心がけていること。個人的に知っているか知らないか、好きか嫌いか、自分に利益があるかないかといったことを度外視するのは言うまでもないですが、すでに知っているつもりでいる対象の内容や意義も考慮しないようにしています。
 応募書類に書かれている内容で判断するようになるべく努める。
 賞は一つの、そして大事なゲーム。本質そのものを1回で決着付けるものでは当然、ないので、その存在意義を高めるようにプレイしたい。
 だから、文字や図面や写真から読み取れる情報と可能性に賭けます。一般的に言って巧いか拙いかではなく、それが自己表現だし、意思だと思いますので。
 「これからの建築士賞」の審査においても、すでに内容の長所は知っていても、推さなかったものもあります。
 SPEACの場合は応募書類も、しっかりと誠実でした。
 でもまあ、落とされたら悔しいもんだし、審査員に対して「こいつ」と思う気持ちは生まれるよね。人間だもの。
 実は最近、そう思われている機会が増えているんだろうな・・・。
 さて、2004年に創業されたSPEAC。ご寄稿いただいた文章から引用すれば、
 「SPEACのコアメンバー3人は全員建築学科出身だが、林厚見は経営コンサル、吉里裕也は不動産デベロッパー、宮部浩幸は建築アトリエ・大学教員出身で得意分野が異なっています。林は経営コンサルタントとしてキャリアをスタートし、様々な事業の組み立てや再生を・・・」。
 文章が惹き付けるので、どこまでも引用したくなってしまう。続きは、実際の書籍で(笑)。
 SPEACらしいプロジェクトごとの連携の仕方、契約の仕組み、北九州・小倉に昨年誕生した「タンガテーブル」までの具体的事例が詰まっています。
 もう1文だけ「僕たちは建築によって社会にコミットしたいと考えている。」とは、何という堂々とした「建築」の宣言か。
 実務派も、理論派も、注目すべきはSPEACの活動なのです。
 それにしても、SPEACをなぜ知っているのか?
 リノベーションスクールなどで時々に会っていたりということもある。
 でも、考えてみたら大きいのは、前々回の「第14回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」の日本館コミッショナー指名コンペで一緒に知恵を出し合って、共同の名前で闘ったからでした。
 いい案だと思うんだ。箸にも棒にもかからなかったけどね・・・なんて悪態をつく。やはり人間、落とされると理屈抜きに悔しいんだよ(笑)
 って、下手すると、そうやって嫉妬で回転してしまいそうな社会は、我が身の中にもある。SPEACはそれを実践と理論で切り開こうとしています。他の「これからの建築士」も同じです。だから、応援しています。


これからの建築士 職能を拡げる17の取り組み

倉方俊輔 吉良森子 中村勉/編著
A5判・192頁・定価 本体2300円+税
ISBN978-4-7615-2616-0
2016/03/01



建築への信頼が問われる今、必要なのは100万人の「建築士」のバージョンアップだ。専門性を活かしながら、新たな領域と関係性をつくり出して活動する17者の取り組みを、本人たちが書き下ろした方法論と、核心を引き出すインタビューによって紹介。日本全国の建築士が今できる取り組みを見つけ、仕事の幅を拡げられる1冊。






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